映写窓

地方映画館に勤める支配人による日々の映画の覚え書き

ゴダールと記憶 『イメージの本』公開に寄せて

 

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© Casa Azul Films - Ecran Noir Productions - 2018

 おそらく、5年前の自分に上田でジャン=リュック・ゴダールの新作がかかるよ、と言ってもにわかに信じないと思う。そもそも、5年後にゴダールが生きているのか(御年88歳)と、そこの部分のほうが半信半疑だろう。

 それはそうとして、ゴダールの最新作『イメージの本』が6/1(土)より上田映劇にて封切られた(長野県内初である)。公開に至るまで、ポスターを見たお客さんからは、「ゴダールって、まだ生きているんだ」と、やはりまだご存命なところに驚かれている。それほど、ゴダールという人物が映画史にその名を刻んでから久しいということの証明だろう。

 ゴダールは、『勝手にしやがれ』(1959)で初長編監督デビューした、フランスの映画監督だ。フランソワ・トリュフォーエリック・ロメールらとともにヌーヴェル・ヴァーグ(1950年代末~60年代末にかけて、フランスの青年監督たちが展開した映画の革新運動)の旗手として知られる、大袈裟に言えば生きる伝説である。そんな、映画好きなら一度は耳にしたことがあるであろう世界的巨匠の新作が上田でかかっているのだ。これは事件である、と言わんばかりに息をまいて映画を鑑賞したのである。感想としては、「実に難解である」だ。さらに嚙み砕いていえば、「よくわからなかった」である。よくもまあ紛いなりにも映画館支配人を名乗っている人間が、恥ずかしげもなくこんなことが書けたものだ。しかし、これが事実だからしょうがない。

 映画の内容としては、

 

暴力・戦争・不和に満ちた世界への怒りを、様々な絵画・映画・文章・音楽で表現した作品。過去人類がたどってきたアーカイブの断片を中心に、新たに撮り下ろした子どもたちや美しい海辺などの映像を交えながら、ゴダール特有のビビッドな色彩で巧みにコラージュ。5章で構成され、ゴダール自らがナレーションを担当した。イメージの本 : 作品情報 - 映画.comより引用)

 

古今東西の絵画・映画・文章・音楽を自ら編集し、ナレーションを加えた映像アーカイブだ。普段、私たちがよく見るわかりやすい劇映画を〈小説〉と例えるなら、今作はゴダールによる〈エッセイ集〉だ。ゴダールのなかにある、噴き出すイメージと音の奔流に飲み込まれるような感覚である。めくるめく映像体験に身を投じていると、気がつけば1時間半の時間が経ち、映画は終わりを告げる。一度では、とうてい理解できない(おそらく理解させようともしていない)鑑賞の記憶だけが胸の中に残るのだ。

「わからない」「難解」「理解できない」という感想が並べられるだけで敬遠される方も多いかと思う。なかには「大いに感銘を受けた!」という方もいると思うが、今回ばかりは、この「わからなかった」という事実こそをいろんな方に体験していただきたい。理解することはできなかったが、あの時、あの場所でゴダールの映画を見た、という思い出を、いろんなものが簡単に享受できる時代にこそ刻まれてほしい記憶なのである。

 

上田映劇にて、6/14(金)までの上映。

詳しくは→上田映劇 – 長野県上田市で100年の歴史を誇る老舗劇場。上田映劇のホームページ。

 

[予告編]4月20日(土)公開!ジャン=リュック・ゴダール最新作『イメージの本』予告 - YouTube